2019年、防衛白書に掲載された地図に多くの誤りがあると地理学者の近藤暁夫さんらが指摘しました。現在も官公庁による地図の質は向上していない、と近藤さんは指摘します。地図の誤りが生むリスクと、メディアや市民によるチェックの必要性について寄稿してもらいました。

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 古代の大河文明の時代から、地図は土木や土地に関わる行政の礎だった。統治上・軍事上の有用性から、地図の扱いは為政者の必須の素養とされてきた。

 地図の重要性は今日も変わらない。民主主義に基づく統治が正しく機能するために、主権者一人ひとりに地図を正しく扱う能力が求められる。そのために、政府行政機関やジャーナリズムは、広く主権者に適切な地図を提供しなければならない。

 ただ今日の日本は、主権者への適切な地図の提供という点では必ずしも十分ではない。防衛省の「防衛白書」掲載の地図に多くの誤りがあることを筆者らが指摘し、それを朝日新聞が報じたこともある(2019年8月17日朝刊)。しかし残念ながら、政府が国民に提示する地図の質はその後も向上していない。

  • 防衛省、地図に誤りだらけ 専門家「根本的な知識欠如」

 同じ防衛省が2023年9月に公開したパンフレット「なぜ、いま防衛力の抜本的強化が必要なのか(高画質PDF版)」を例に取ってみよう(2024年6月12日現在)。省ホームページのトップにリンクが貼られており、自信作のパンフレットなのだろうが、そこに掲載されている地図はひどい。

 2ページ掲載の地図=図1=では奄美群島が欠落し、奄美大島があるべき位置に沖縄本島が置かれている。本来の沖縄本島がある位置にも島が描かれているが、それは日本に属する島とは別の色で塗られている。

 さらに、3ページの地図では…

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